参考資料:契約関連のご相談
2.契約書をチェックしたい
相手から契約書を提示されたら
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即断せず,検討すること
相手から提示された契約書の内容に疑問点等がある場合には,その場であいまいな返事をせず,その契約書を持ち帰って検討すること,この場では契約を締結しないこと,という意思を明確に示しましょう。契約は面前での口約束,電話での通話,電子メールでのやり取りでも成立します。相手が契約書を提示した場合,その契約書に署名捺印しない限り契約が成立しない,ということはありません。そこで,上記の意思を相手に伝わるように明確に伝えましょう。
それでは,契約書を持ち帰ったとして具体的にどのように検討すればよいのでしょう。下記の2及び4を見てください。 - あなたが会社の担当者として契約書を提示された場合
例えばあなたが会社の営業担当者で,会社の業務に関連して契約書を相手から提示された場合,あなたの会社に法務部等の契約書を審査するための専門的部署があれば,法務部等に契約書のチェックを依頼することになるでしょう。しかし,仮にあなたの会社にそのような専門的部署がない場合には,どのようにすればよいのでしょう。会社が行う取引は,取引金額が莫大であるばかりでなく,多くの利害関係人が発生する場合があるので,慎重に締結しなればなりません。よって,弁護士等のプロに相談して契約書のチェックを依頼するのが,リスク管理として重要です。 - あなたが個人として契約書を提示された場合
個人であっても,契約の当事者として相手方契約書を提示される場合はあります。例えば,住居を借りる場合には不動産賃貸借契約書を交わしますし,会社等で勤務する場合には雇用契約書を交わします。住居も,仕事も,あなたの生活ひいては人生に大きく関わることなのですから,会社が契約を締結する場合に劣らず,慎重に検討しなければならない場面です。個人の場合は,知人に弁護士がいる人は多くはないでしょうが,弁護士を探して依頼する手間を惜しんだために,将来大きなトラブルに巻き込まれないとは限りません。契約書の内容に疑問を感じた場合には,億劫がらずに弁護士に相談してみましょう。 - 組合から暫定協定の締結を求められた場合
団体交渉の申し入れに伴って、組合から暫定協定の締結を求められることもあります。これにも直に応じる必要はありません。暫定協定の内容には、不当労働行為を行わないとか、交渉申し入れ義務とかを使用者に負わせるものが有ります。しかし、不当労働行為を行わないのは法令に定められた当然のことですし、組合員についての労働条件についてに常に組合に交渉を申し入れなければならないということも法令で定められた事を上回る義務を使用者に負わせるものですので慎重に判断するべきだからです。
契約書のチェックポイント
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はじめに
契約には様々な種類の契約があり,当然それぞれの契約によって契約書のチェックポイントは異なってきます。あらゆる種類の契約に関する契約書のチェックポイントをここで挙げるのは不可能なので,ここでは多くの種類の契約の契約書に共通する一般的なチェックポイントを紹介します。 -
契約書の題名について
契約書には例えば「売買契約書」等という題名が付けられているのが一般的です。もっとも,契約内容は契約書の本文によって決まります。たとえ契約書の題名が「売買契約書」であったとしても,目的物を無償で譲り渡す契約内容だった場合は,その契約書は贈与契約についての契約書であることになります。そこで,契約書を作成する場合には,その契約書の題名が契約内容を正確に反映した妥当なものかについて注意しなければなりません。また,契約書のチェックにあたっては契約書の題名に惑わされずに,契約書の本文から契約内容を判断する必要があります。 - 「覚書」や「合意書」について
契約書の題名が「覚書」や「合意書」の場合は,その他に元となる契約書が存在する場合が多いと言えます。そこで,契約書を作成する場合は,その覚書や合意書と,それに関連する契約書との効力関係について明示すべきです。また,契約書をチェックする場合には,他に覚書や合意書が存在するかどうかを調査すべきです。-
※ 覚書,合意書,念書とは
会社間の取引で用いられることがある基本契約と個別契約ですが,基本契約とは例えば会社間で継続的な取引が行われる場合に,その取引内容の概要(納品する製品の種類・対価の支払い方法・秘密保持条項など)を定める契約を言います。また,個別契約とは,個々の取引の内容(製品の個数・対価の金額・納期など)を定めるものを言います。もっとも,基本契約・個別契約はこの意味で用いられる場合が多い,というだけであり,上記「2.契約書の題名」で記載したように,契約内容は文言で決まります。
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※ 覚書,合意書,念書とは
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その契約書に調印した者は誰か
契約当事者が会社等の法人である場合,契約を締結した者(契約書に調印した者)に会社を代表する権限がなければ,その契約の効力は会社に帰属しないのが原則です。調印したのが代表取締役であれば,会社代表権限があるのが明らかなのですが,それが例えば会長・副社長・単なる取締役・支配人・部長等であった場合はどうでしょうか。この場合は代理権がある場合とない場合がありうるので,調査するか弁護士に対応方法などを相談する必要があります。 - 日付について
契約書に調印した日付は,契約成立日であると推定されます。しかし,場合によっては契約書にあえて契約成立日を別の日として指定する場合もあります。契約成立日は,履行の期日や消滅時効の起算点にも関わってくる重要な事項です。そこで,契約書を作成する場合は,契約調印日と契約成立日をどうするのかの判断が必要となり,契約書をチェックする場合は,契約成立日がいつであるかをチェックする必要があります。 - 署名捺印について
契約書には署名捺印がされるのが通常ですが,署名の代わりにゴム印で会社名を押すのはよいのか,捺印は実印か認印か,という問題があります。実際にはゴム印(記名)や認印でもよいのですが,契約書の信用性を確保するためには署名と実印による捺印によるべきなので,契約書作成の際には注意すべきです。また,契約書チェックの際には記名や認印による捺印がされている場合には,契約書の偽造を疑う余地があります。-
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「実印」と「認印」の違い
実印とは,個人の場合は役所に登録している印鑑のことをいい,会社の場合は法務局に登録している印鑑のことをいいます。実印は通常,大量生産品ではなく個別に発注して作らせた印鑑を用います。一方,認印とは郵便物の受け取りなどに用いる印鑑のことであり,大量生産品であることから,いわゆる三文判とも言われているものです。
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「実印」と「認印」の違い
- その他の印について
署名捺印のための印とは別に,いわゆる「契印」「割印」「訂正印」「捨印」「消印」が使われることがあります。-
ア 契印とは
契印とは,契約書が複数ページにわたる場合に,見開きページの用紙と用紙の境い目に押す印のことです。通常は,契約当事者双方の印を押します。この契印が押されることにより,契約書の一部のページが差し替えられることを防ぎます。なお,この契印のことを「割印」と呼ぶ場合もありますが,割印とは厳密には下記の意味で使われます。 - イ 割印とは
同じ内容の契約書が2通作成された場合,または相互に関連する契約書が2通ある場合に,それぞれの契約書をいったん接触させ,その境い目に押す印のことです。通常は,契約当事者双方の印を押します。この割印は,それぞれの契約書が同一であること,または関連し合うことを示すためになされます。 -
ウ 訂正印とは
訂正印とは,契約書の文言を削除・付加・訂正した場合に,その訂正などをした箇所に押す印のことです。通常は,契約当事者双方の印を押します。訂正印に加えて,「削除五字」などの記載も行います。訂正印は,その訂正などが権限ある者によってされたことを示すためになされます。 -
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「削除五字」と記載する理由
まず,「削除5字」と算用数字で記載した場合,間に数字の「1」を挿入することで,あたかも「削除15字」であるかのように見せかけることが可能となってしまいます。また,「五字削除」と記載した場合も,先頭に「一」と記載することで,あたかも「一五字削除」であるかのように見せかけることができてしまいます。「削除五字」と記載するのは,このような工作を防ぐ意味があるのです。 -
エ 捨印とは
予め契約書の欄外などに押される印のことです。契約書が1通しか作成されない場合,その契約書を預けた側の当事者が押します。将来,契約書の訂正が必要になった場合,厳密には上記ウのように契約当事者双方が訂正印を押して訂正しなければなりません。しかし,それでは煩雑にすぎる場合があるので,契約書を預かった側の当事者だけで訂正できるように,予め捨印が押される場合があります。予め契約の相手方に契約書の文言を訂正する権限を与えたことに等しいので,捨印を押すときは慎重にされるべきです。 - オ
消印とは
下記のように,契約書には印紙を貼らなければならない場合があり,その印紙と契約書用紙にまたがって押す印のことです。郵便切手に押される消印と同様に,印紙が再利用されるのを防ぐために押されます。この消印は,契約内容に関係しないため,契約当事者の一方が押せば足ります。
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ア 契印とは
弁護士に依頼するメリット
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将来のトラブル回避
契約書を交わして契約を締結する際には,その当事者は良好な関係にあるのが通常ですから,将来どのようなトラブルが起こりうるのか,ということをなかなか想像することができません。しかし,契約にまつわるトラブルは必ず誰にでも起こりうるのであり,そのようなトラブルをできるだけ避けるために契約書があるのです。弁護士ならば,客観的な立場から将来起こりうるトラブルを想定して,それに対処するための契約書作成の手助けとなってくれます。また,相手との関係を考えて,顧問弁護士から指摘されたといって契約書の訂正を相手に求めると,相手が仕方がないとして訂正に応じてくれるケースも少なからずあります。 -
現在のトラブル解決
不幸にも契約にまつわるトラブルが発生してしまった場合には,契約書が当事者間で交わされている場合,その契約書の文言に沿って解決を図ることになります。しかし,普段契約書に接していない人は,その契約書の文言を十分に理解できなかったり,理解できたとしてもその文言が法律上有効であるかどうかの判断がつかなかったりします。弁護士ならば,その契約書の文言を正確に理解して解決の糸口を探すことができます。また,契約書の文言は常に有効であるとは限らず,中には法律上無効な内容を含む契約書もあるのですから,弁護士に相談したならば,契約内容の有効・無効も判断することができ,それが解決に大きな影響を与える場合があります。 -
契約の有効性を確保
契約はトラブルを避けるためではなく,当事者間の取引を開始させ,当事者に利益をもたらすためのものでもあります。せっかく大きな利益をもたらす契約を締結しても,その契約内容が強行法規(これに違反する法律行為を無効とする法律の規定のことです)や公序良俗(公の秩序及び善良な風俗という,抽象的な基準です。これに違反する契約も無効です)に違反していたために,契約が無効となり契約内容が履行されず,見込んでいた利益をあげられなくなることも十分に考えられます。弁護士ならば,強行法規を含む法律の規定や,判例に精通しているのですから,契約の有効性を確保するためにも弁護士に契約書の作成・チェックを依頼すべきです。