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よくある質問

参考資料:債権回収について

2.取引先が倒産した場合
  1. 取引先が倒産した場合とは具体的にどのような場合ですか。
    倒産には,①法的倒産手続,②私的整理(任意整理),③事実上の倒産があります。①法的倒産手続とは法律上の制度に従って,会社の事業を終了させ債務を清算する,あるいは会社の事業を継続し会社の再生を図る手続であり,破産手続,民事再生手続,会社更生手続,会社の清算手続,特別清算手続があります。また,②私的整理(任意整理)とは,法律上の手続をとらずに,裁判所の関与もなしに,当事者の合意に基づいて債務を分割弁済するなどして債務の整理を図るものです。③事実上の倒産とは,会社の資金繰りが立ち行かなくなったが,法的手続や私的整理もすることなく,事実上事業を停止することをいいます。
  2. 取引先が倒産したことを知った場合,まず何をすればいいですか。
    まずは情報収集します。取引先が①法的倒産手続,②私的整理,③事実上の倒産,のいずれかをとるのかによっても債権者の対応は異なってきます。具体的には,最低限以下の情報を整理します。
    • (1) 取引先は事業を継続しているか否か
    • (2) 取引先は法的手続を申し立てたか,あるいは申し立てる予定なのか
    • (3) 取引先に納入した商品はどこにあるのか
    • (4) 自分は取引先にいくら債権を持っているのか
    • (5) 自分は取引先に対し担保権を設定しているか
    • (6) 保証人を立てさせているか,保証人の所在はつかめているか
    • (7) 未発送商品,未到達商品はあるか
    • (8) 取引先との契約は解除したか,解除する契約上の要件はなにか
    • (9) 自分は取引先に何か債権を持っていないか。
  3. 取引先が破産申立て,破産手続開始決定が出た場合はどうすればよいですか。
    自分が取引先に対し債務を負っている場合,相殺をすることにより事実上の債権回収を図ることができます。また,取引先に対し担保権を有している場合(抵当権,質権,所有権留保など)は担保権を実行することにより債権回収できます。さらに,(連帯)保証人がいればそれらに弁済を請求します。一方,これらの方法がとれない場合は,債権届出をして破産手続に参加します。
  4. 相殺する場合の注意点は
    自分が取引先に対して有する債権(自働債権と言います)の弁済期が到来していなければなりません。実際には倒産状態になった時に到来していない場合はどうすればよいでしょう。契約書に大抵,あらかじめ定めた一定の事項が発生すれば,通知または当然に債務者(取引先)の期限の利益を喪失させる条項があります。そこで,通知が必要な場合は通知をすることによって,期限の利益を喪失させ,同時に相殺の意思表示を内容証明郵便で行います。通知が不要な場合は,内容証明郵便で期限の利益を喪失させる事実が発生した旨と相殺に意思表示を記載します。
  5. 担保権の実行方法とは
    破産手続開始決定があっても,債権者の担保権は制限されることなく行使することができるのが原則です。債権者の担保権は別除権と呼ばれます。
    • ① 所有権留保の場合
      所有権留保で商品を取引先に売買し,取引先が倒産した場合は,売買契約を解除し,取引先の了解をとった上で商品を引き上げます。取引先の了解をとらないと,窃盗罪などに問われるおそれがあるため,書面で了解をとります。了解をとる相手方も単なる従業員では足りず,代表者か取引先の弁護士とすべきです。引き揚げた商品を,市場で売るなどして,債権に充当します。なお,取引先がその商品を既に第三者に転売している場合は,その第三者が商品の所有権を即時取得していることが考えられること,及び,取引先との売買契約の中で第三者に転売されたときは所有権留保が解除されると定められている場合があるので,その場合は所有権留保の方法によることは難しくなります。
    • ② 抵当権の場合
      裁判所に対し,競売の申立てを行います。申立に際して必要な書類は,抵当権の設定登記に関する登記簿謄本です。登記簿謄本は,他にも抵当権の存在を証明する確定判決でもよいですが,大抵は登記簿謄本で申立てを行います。また,申立を行う裁判所は,対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に行います。
  6. 債権の届け出方法とは
    取引先が破産手続開始決定を受けると,裁判所から債権者であるあなたに通知が送られてきます。その通知に債権届の用紙と,その記載方法が記載されていますので,それに従って裁判所が指定する債権届の提出期限までに提出します。債権届には,債権の存在を示す資料(契約書,注文書,請求書などの写し)も添付します。
  7. 取引先が民事再生または会社更生の申立てをし,民事再生・会社更生手続開始決定を受けた場合はどうしますか。
    破産の場合と同様に,相殺,担保権の実行,保証人への責任追及を検討し,それでも債権回収が図れない場合は,債権の届け出を行います。
  8. 相殺について注意点はありますか。
    破産の場合は,相殺の意思表示の期限について特に制限はなく,最後配当に関する除斥期間の満了(配当についての公告または債権者あての通知があった時から2週間)までなら相殺は可能です。しかし,民事再生・会社更生の場合は,債権届出期間の満了までに相殺の意思表示をする必要があります。
  9. 債権の届け出について注意することはありますか。
    破産の場合は,債権届出期間に遅れても一定の場合は破産債権として認められる余地がありますが,民事再生・会社更生の場合は期限内に届け出ない場合は原則として失権となり,あなたの債権が再生債権として認められないので,必ず期限は守るようにしてください。
  10. 取引先が②私的整理として債務の分割弁済を申し入れてきた場合の注意点はありますか。
    分割弁済させる場合には,改めて契約書を作成し,期限の利益喪失約款を盛り込む,違約金の規定を盛り込む,連帯保証人を付けさせる,執行受諾文言付きの公正証書を作成する,などのより一層慎重な対策が必要です。ここで,執行受諾文言付き公正証書とは,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述を記載している公正証書を言います。この文言があれば裁判を経なくとも,直ちに強制執行を行うことが可能になります。
    もっとも,執行受諾文言付きの公正証書は,一定の金銭の支払い又はその他代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする契約についてのみ認められますので,特定の物の引き渡しを債務内容とする場合は,認められません。
  11. 取引先が②私的整理を望んでいる,または③事実上の倒産をして債権回収が難しい場合は,どのような方法が考えられますか。
    相殺する,債権譲渡を受ける,債権譲渡する,取引先に代わって破産申立てをする,あるいは破産申立てを持ちかける,自社製品・他社製品を回収するなどの方法が考えられます。
  12. 債権譲渡を受ける方法について説明してください
    取引先は,それまで何らかの事業を行ってきた以上,第三者に対して金銭債権を持っていることも十分に考えられます。例えば,取引先が別の会社に対して売掛金を持っている場合です。その場合,取引先からその債権の譲渡を受け,あなたが譲り受けた債権を第三者に対して行使することにより,債権の回収を図ることができます。債権譲渡は原則として自由にできますが,債権譲渡を第三者に対抗するには,確定日付ある証書により,取引先から第三債務者に対して譲渡の事実を通知させる必要があります。内容証明ならば確定日付がありますので,内容証明を用いて,取引先に譲渡の通知をさせましょう。
  13. 債権譲渡をする方法について説明してください。
    あなたが取引先に持っている債権を,第三者に譲り渡すことにより,あなたの取引先に対する債権を,現金化でき,これにより債権の回収を図ることができます。もっとも,あなたが譲り渡す債権が回収の見込みの低いものとされることにより,債権額より安く譲渡せざるを得ないことも十分に考えられます。その場合は,どの程度割り引いて譲渡するかの判断が必要になります。
  14. 破産申立てをする,あるいは持ちかける方法について説明してください。
    破産申立ては債権者も行うことができます。取引先を破産させることで,破産管財人による取引先の財産状態の調査が行われ,その財産を配当することになります。もっとも,破産を申し立てる者が手続に要する費用と,破産管財人の報酬を予納する必要があるので,まったく財産の配当が期待できない場合に破産申立てを行うと,かえって費用倒れになる恐れもあります。なお,実際に破産申立てをせずとも,破産申立てをすると取引先に申し向けることで,取引先が今後も事業を継続する意思を有している場合には,その申し向けが心理的圧迫となって,取引先が弁済に応じることも考えられます。
  15. 自社製品・他社製品を回収する方法について説明してください。
    自社製品を回収する方法については,上の所有権留保の実行方法で記載したとおりです。売買契約を解除し,所有権に基づいて回収しますが,取引先の承諾が必要になります。また,他社の製品を取引先から譲り受けることにより,代物弁済として債権の回収を図ることができます。
    もっとも,この場合はもともと第三者の財産だったものですから,「自社の製品を回収する」場合よりもさらに取引先の同意書を取っておく必要が高くなります。この場合も同意書がない場合は窃盗罪に問われる恐れがあります。さらに,この場合は取引先も容易に同意書を交付しないかもしれません。そこで,取引先に対し,「弁済するまでこの製品は預かっておく」と申し向け,預かり証を取引先に交付する,という手段も考えられます。ただ,一つ間違えば危険な方法ですので,実行する場合は弁護士に相談してからにすべきです。

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