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シフト制労働者に関する実務対応

2022年02月04日

 新型コロナウイルスの影響により労働者を休業させる際に、シフト制(あらかじめ具体的な労働日、労働時間を定めず、シフト表等により柔軟に労働日、労働時間が決まる勤務形態)の労働者にも休業手当の支払いが必要となるのかが問題となるなど、近年シフト制の労働者に関してトラブルとなることが増えています。
 厚生労働省は、このような状況を受けて、2022年1月7日付で『いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項』※(以下「留意事項」といいます。)をまとめ公表しました。
 労働基準監督署が指導を行う場合に、この留意事項に沿った指導がなされる可能性があるので、留意事項の中で特に実務上重要な部分の概要を以下で説明いたします。
※全文は、https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870905.pdfを参照ください。

  1. 労働条件通知書等に記載すべき事項
    ⑴ 始業及び終業の時刻に関する事項
    ・労働条件通知書等には、単に「シフトによる」と記載するのでは足りない。
    ・労働日ごとの始業及び終業時刻を明記、または、原則的な始業及び終業時刻を記載したうえで労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要。
    ⑵ 休日に関する事項
    ・労働契約の締結時に休日が定まっている場合は、これを明示しなければならない。
    ・具体的な曜日等が確定していない場合は、休日の設定にかかる基本的な考え方を明示しなければならない。

    【解説】
     始業・終業時刻や休日の明示は、シフト制労働者にかかわらず、従前から指導されていた事項です。
     明示できるに越したことはありませんが、多くの企業ではその時々の業務量に対する必要人員を勘案してシフトを決めているのが実態であると思われ、そもそも明確に基本的な考え方(ルール)が決まっていないことも珍しくありません。
    そうした場合には、たとえば当該労働者が働く可能性のある始業・終業時刻の代表的なパターンや、労働日であれば1週間に働く可能性のある最大と最小の日数の範囲を明示するなど可能な範囲で明示するように努めることが望ましいと考えます。ただし、例外がありうることも併せて明記しておくべきです。

  2. 就業規則に規定すべき事項
    ・就業規則上「個別の労働契約による」、「シフトによる」との記載のみにとどめた場合、就業規則の作成義務を果たしたことにならないこと。
    基本となる始業及び終業の時刻や休日を定めた上で、「具体的には個別の労働契約で定める」、「具体的にはシフトによる」旨を定めることは差し支えないこと。

    【解説】
     基本となる始業及び終業の時刻や休日を定めようとするあまりに、想定をしていない約束をしてしまわないように注意が必要です。例えば、1週間のうち1回もシフトが入れられない可能性があるのに、労働日数を「週1日~3日」としていた場合、最低1日は労働日を入れなければならなくなってしまいます。

  3. 決めておくことが望ましい事項
    ・シフト表を労働者に通知する期限や方法などのシフト作成の手続き
    ・確定したシフト表における労働日・労働時間等の変更を申し出る期限や手続などのシフト変更に関するルール
    ・一定の期間において、労働する可能性がある最大の日数・時間数・時間帯など労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方

    【解説】
     最近の裁判例(東京地裁令和2年11月25日)では、雇用契約書に「シフトによる。」という記載があるのみで具体的な労働日数などが決められていなかったものの、使用者が、従前1か月9回から16回出勤していた労働者に対して、月1回またはシフトを入れないという大幅なシフト削減をしたところ、これを裁判所はシフト決定権の濫用として、シフトの削減を無効と判断してシフト削減がなければ得られたであろう賃金の支払いを命じました。このように、勤務日数が0になる可能性があるのであれば、そのことを契約書等に記載して、よく説明をしておくなど、事前のルール作りが不可欠です。

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