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残業代の趣旨で手当を支払う場合の注意点
2022年01月07日
2021年12月9日に『京都市のタクシー会社「洛東タクシー」と「ホテルハイヤー」の男性運転手計27人が、歩合給に残業代を含むとする会社の制度により、残業代が不当に未払いになっているとして計約1億900万円の支払いを求めた訴訟の判決で、京都地裁は9日、計約1億500万円を支払うよう命じた。』(共同通信)との報道がありました。
この事件では、営業成績で決まる歩合給の「基準外手当」が時間外割増賃金として支給されたものであるのか否かということが争われましたが、裁判所は雇用契約書などの書面上、「基準外手当が時間外労働の対価との記載はない」として、「基準外手当」は時間外割増賃金には当たらないと判断しました。
◆残業代が無効になると企業側にはダブルパンチ
例えば、基本給20万円、手当月額4万円、月平均所定労働時間が160時間で、2年間合計960時間分(月平均40時間)の残業代を請求された場合を仮定します。手当の4万円が残業代として支払われたと認められるか否かで、残業代として支払う金額は下記表の通り120万円以上変わってきます。残業代として支払う手当の金額が大きくなれば、さらに影響はおおきくなります。
残業単価 /1H |
追加で支払う残業代 | 差額 | |
---|---|---|---|
残業代 有効 |
1562.5円 =20万円 ÷160H |
54万円 =150万円 (1562.5円×960H) -96万円 (4万円×24か月) |
126万円! |
残業代 無効 |
1875円 =24万円 ÷160H |
180万円 =1875円×960H |
◆手当を残業代として支払う場合の有効要件
ある手当が残業代として支払われていると認められるためには、①就業規則や雇用契約書に当該手当を残業代として支給する旨を記載して契約の内容となっていること、②基本給などの通常の賃金と割増賃金部分が明確に分かれていること(区分明確性)の、大きく2つの要件を満たす必要があります。
①との関係では、途中で就業規則の規定を変更した場合は要注意
元々通常の賃金として支給していた手当を残業代に変更すると、基礎賃金が下がり労働者に不利益な変更となります。このような実質的な賃下げに当たるような不利益変更の場合、労働者の同意を得られないと、余程重大な経営の危機でもない限りは、無効となる可能性が極めて高いです。また、労働者の同意も形式的なものでは足りずに、真意に基づく同意が必要となり、ハードルはかなり高くなるので、慎重に手続きを進める必要があります。
②の要件との関係では、「残業代を含む」という記載は要注意!
就業規則等の記載 | 有効性の判断 |
---|---|
○○手当に残業代を含む | × 残業代がどのくらい含まれているか分からないので、区分明確性が無いと判断されます。 |
○○手当に残業代●時間分を含む。 | △ 残業代が何時間分か示されているので、時間をかければ一次関数により通常の賃金部分と残業代部分を計算することは理屈の上では可能です。しかし、過去の裁判例では、このような記載では一見して労働者に通常の賃金部分と残業代部分の金額がそれぞれ幾らになるのかが分からないことから、区分明確性を満たしていないと判断されたものもあり、リスクが高いです。 |
○○手当の内▲円を残業代として支給する。 | 〇 金額を明示することによって通常の賃金部分と残業代部分のそれぞれ幾らになるのか明確になっているので、区分明確性の要件を満たしています。 ただし、職業安定法の指針や若者雇用促進法の指針において、求人票には残業代の時間数を記載することが求められており、求人を行う場合には不十分となります。 |
○○手当の内▲円を●時間分の残業代として支給する。 | ◎ このように記載しておけば、区分明確性の要件も、求人票の記載内容としても問題ないものとなります。 |
🥊 手当が基礎賃金に含まれて、割増賃金の単価が高くなる。