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指導・叱責と損害賠償責任

2021年11月18日

 職責を果たしていない従業員やミスが多い従業員に対して指導を行う際、叱責を行うことは珍しくありません。しかし、従業員の改善を願い行った叱責が、法的にはパワーハラスメントになる場合があります。叱責がパワーハラスメントとなった二つの裁判例を紹介します。

◆人前で、14分以上、人格攻撃に及ぶ叱責を行ってしまった例(東京地裁立川支部判決令和2年7月1日)

 本件の使用者は病院で、労働者Xは、病院の患者数のデータ管理をする課の課長でした。ある時、患者数のデータ管理について問題が発生しました。そのため、Xは、管理職が出席する会議でこの問題が発生した原因等を説明しましたが、その説明内容は要領を得ないものでした。この説明を聞いた労働者Xの上司Aは、会議の場で、Xに対して、次のように述べました。
「(注:データ処理の誤りが)いつまでたっても直っていない現状に対して、ホウレンソウもなくて。何もしないで。」「なぜそういう嘘をつくの」「日本語もっと、しっかりとして使って言ってくんないとさー。嘘にしか聞こえないよ。もう。」「えらそーに言ってんじゃねえよ。」
 会議の場での上司Aの発言などがパワハラか否か争われた事案で、裁判所は次の判断をしています。
 Xに対して、「事実関係を把握した的確な報告をするよう求めることは、上司Aの職責の範囲内のもの」である。「いつまでたっても(中略)何もしないで」と述べた部分は、Xが対応策を十分検討していないこと等を指摘するものであり、業務上の必要性は否定できない。しかし、「なぜそういう嘘をつくの」などの上記下線部の発言は、「上記の部分を超え、原告が嘘つきである、偉そうに言っているからむかつくなどと叱責ないし罵倒するもの」である。そして、Aの叱責は、「他の管理職が居合わせる会議の最中に、14分近く」行われたものである。そのため、発言の内容や態様からすれば、上司Aの発言は、「業務上の必要性を超え、不必要にXの人格を非難」し「業務の適正な範囲を超え」た叱責でパワハラである。

 一般に「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」指導はパワハラになりうるとされています。本件で、裁判所は、叱責そのものの必要性は否定せず、下記3点に着目し、Aの叱責が、全体として「相当な範囲を超えた」指導であると判断しました。
①「嘘つき」など、Xに対して報告を求めるという目的とは関係ない叱責を、根拠なく行っていること(発言内容そのもの)。
②叱責がほかの管理職が居合わせる会議中に行われたこと(場所)。
③叱責が14分近くにわたったこと(時間)。
 以上の通り、この裁判例は、叱責が必要な状況であっても、叱責の発言内容や、場所、時間を考慮して叱責する必要があることを示しています。

◆労働者の属性や心身の状況を考慮しなかった例(仙台高判平成26年6月27日)

 本件の使用者は、運送会社で、労働者Xは新卒採用者でした。Xの労働時間は、一か月300時間程度に及ぶなど長時間にわたっており、業務内容も肉体労働が主でした。
 Xは、新卒採用者にありがちなミスをほぼ毎日していました。上司Aは、Xに対して、ほぼ毎日、「何でできないんだ。」、「何度も同じことを言わせるな。」などと、5分から10分程度、周囲にほかの従業員がいるか否かにかかわらず、強い口調で叱責しました。これらの事情があった中で、Xは、入社約6か月後に自殺しました。
 裁判所は、上司Aによる指導について、「新卒社会人であるXの心理状態、疲労状態、業務量や労働時間による肉体的・心理的負荷も考慮しながら、Xに過度の心理的負担をかけないよう配慮されたものとはいい難い」ことなどを理由に、上司Aの指導はパワハラであると判断しました。

 パワハラの考慮要素の一つに「労働者の属性や心身の状況」などがあります。この事案は、新卒採用者という「労働者の属性」、過労死ラインを超える肉体労働により心身に強い負荷が生じていたという「心身の状況」を踏まえ、叱責がパワハラであると判断しています。そのため、この裁判例は、叱責に当たっては、叱責される側の状況に対する配慮が欠かせないことを示しています。
 なお、この事案では、使用者(会社)と上司Aは、3470万円の損害賠償責任を負っています。このように、叱責がパワハラとなった際、会社や上司は、重大な責任を負う可能性があります。

【まとめ】
 このほかにも、叱責がパワハラであるとされた裁判例は、多数存在します。叱責を行う場合には、叱責がパワハラとならないように、発言内容、時間数、場所、叱責される側の属性や心身の状況などを慎重に検討することが必要になります。
 ミスを多発する従業員などへの指導に悩んだ際には、弊所までご相談ください。

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