労務トラブルを解決する

労務問題・顧問弁護士.JP

NEWS&TOPICS

NEWS&TOPICS

新型コロナワクチン接種に関する取り扱い

2021年11月04日

 本書面執筆時点(2021年10月20日)における、新型コロナワクチンの接種状況は、総接種回数が1億8200万回となり、1回目の接種が完了している者が75.8%、2回目の接種まで完了している者が68.0%となっています(出典:首相官邸HP)。
 このように新型コロナワクチン接種が進む中で、職場において新型コロナワクチン接種をめぐる問題が発生し、ご相談をいただくことが多くなりました。
 そこで代表的な問題について、Q&A方式で取り上げます。

Q1.従業員に対し、新型コロナワクチンを接種するように命じることはできますか。
A. 使用者が、従業員に対して、新型コロナワクチンを接種することを強制することはできません。

【解説】
 新型コロナワクチンの接種は強制されるものではなく、本人の意思に基づいて行われることが前提となります。厚労省の新型コロナワクチンQ&Aのホームページにおいても、「仮にお勤めの会社等で接種を求められても、ご本人が望まない場合には、接種しないことを選択することができます。」と記載されており、この趣旨が明確にされています。
 また、新型コロナワクチンの接種を従業員に命じ、従業員がその命令に従ってワクチン接種を受けたところ、重篤な副反応により健康被害が発生した場合、安全配慮義務違反などを理由に当該従業員から使用者に対して損害賠償請求がなされるリスクもあります。
 したがって、従業員に新型コロナワクチンを積極的に接種して欲しいと考える場合でも、ワクチン接種を命じることは避けて、ワクチン接種を推奨するにとどめるべきです。ワクチン接種を推奨する企業では、特別の有給休暇を付与したり、奨励金を出すなど、従業員がワクチン接種を行い易くする施策を行っているところもあります。

Q2.従業員に対し、新型コロナワクチンの接種状況や接種の意向を確認することはできますか。
A. 使用者が、従業員に対して、新型コロナワクチンの接種状況や接種の意向を確認することはできます。ただし、従業員からの回答情報の取扱いなど注意すべき点があります。

【解説】
 使用者は、労働者に対して、安全配慮義務を負っており、この安全配慮義務の一つとして、新型コロナウイルス感染症への感染リスクを可能な範囲で引き下げるという義務があると解されます。そのため、安全配慮義務を適切に履行するため新型コロナワクチンの接種状況や接種の意向を確認しておくことには、業務上の必要性があるといえ、原則として許されるものと考えます。
 ただし、ワクチン接種状況等の情報は要配慮個人情報にあたる可能性があります。要配慮個人情報は、本人の同意なく第三者に開示することは許されないため、当該情報が本人の同意なく第三者に開示されることが無いように管理を徹底する必要があります。
 また、ワクチン接種を行わない意向を示した従業員に対して、何度も繰り返し意向を確認する行為は、個の侵害(プライベートへの過度な干渉)としてパワーハラスメントに該当する可能性があります。そのため、少なくとも短期間に何度も繰り返しワクチン接種の意向を確認することは避けるべきです。

Q3.新型コロナワクチンを接種していない従業員を、人と接することのない業務に配置転換できますか。
A. 配置転換を行うにあたり、業務上の必要性の有無や、配置転換を行うことによる労働者の不利益がどの程度かについて、慎重な検討を行うことが必要です。また、やむを得ず配置転換を行う場合であっても、出来る限り当該従業員の理解を得られるように努力すべきです。

【解説】
 配置転換以外の感染防止対策で代替可能であり業務上の必要性が高いとは言えない場合や、人と接することのない業務に配置転換することによって大幅に給与が減額されるなど労働者の不利益が大きい場合には、配置転換を命じても権利濫用として無効となるリスクが高まります。したがって、業務上の必要性の有無や、業務上の必要性と労働者の不利益の程度については、慎重に検討を行うべきです。やむを得ず配置転換を行う場合でも、配置転換を行うことについて、同意(書面又はそれに準ずる方法で)を得て行うこと原則とすべきです。
また、新型コロナワクチンを接種していない従業員を、人と接することのない業務に配置転換する措置は、基本的には従業員の健康・安全を守るために行われるものですが、従業員が当該措置を希望していない場合には、トラブルになる可能性が高まります。そこで、トラブルになる可能性を下げるために、同意を得ることが難しい場合でも、出来る限り当該従業員の理解を得られるよう配置転換を行う意図を十分に説明するなど丁寧な対応を行うべきです。

ページトップへ