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給与のデジタル払い制度

2022年12月05日

 最近は、決裁アプリを利用してデジタルマネーで支払いを行う人を街中で頻繁にみかけるようになり、社会的にも決済方法としてデジタル払いが浸透してきました。
 こうした社会情勢を踏まえて、厚生労働省は、2022年10月26日に、給与をデジタルマネーで支払う制度の導入を盛り込んだ労働基準法施行規則の一部を改正する省令案について、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会に対して諮問を行い、同分科会は「おおむね妥当」とする答申をしました。厚生労働省は、この答申を受けて、省令の改正作業を進めて、2023年4月1日から施行する予定です。

◆制度の概要
 労働基準法では、給与の支払いは現金で直接支払うことが原則となっています(同法第24条第1項)。しかし、現在では、ほとんどの企業が労働者の同意を得て、労働者の金融機関の口座へ振り込む方法で給与を支払っています。
給与のデジタル払い制度では、金融機関の口座に振り込むのと同様に、使用者は、労働者の同意を得た場合には、厚生労働大臣が指定する資金移動業者(決済アプリの運用事業者)の口座へ給与の支払いができるようになります。 なお、デジタル払いと言っても、ポイントのように換金できないものではなく、口座から引き出して現金化できるものに限られます。

◆労働者の同意について
 労働者が、使用者から給与のデジタル払いを強制されないように、次のようなルールが設けられる予定です。なお、同意書の様式例については、厚生労働省から公表される予定です。

①使用者は、労働者に対して、給与支払方法の選択肢として必ず銀行口座への振込を提示しなければならず、現金払いかデジタル払いかの2択を迫ることは許されないこと。
②使用者は、デジタル払いの支払い先の口座とすることができる資金移動業者を1社に限定せずに複数とするなど労働者の便宜に十分に配慮して定めること。
③使用者が、形式的に労働者に選択肢を提示していたとしても、実質的にはデジタル払いを労働者に強制している場合には、労働基準法第24条違反となる旨を同意書の様式例に記載すること。

◆厚生労働大臣が指定する資金移動業者の要件
 資金移動事業を行うには登録が必要とされており、2022年10月31日時点で登録されている資金移動業者は85社あります。しかし、給与支払口座とすることができるのは、労働者が給与の支払いを確実に受けられるように、以下の要件を満たしていると厚生労働大臣が指定した資金移動業者に限られます。

①破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。
②口座残高上限額を100万円以下に設定又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること。
③労働者に対して負担する債務について、当該労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により当該労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること。
④最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年は口座残高が有効であること。
⑤現金自動支払機(ATM)を利用すること等により口座への資金移動に係る額(1円単位)の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。
⑥賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
⑦①~⑥のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

なお、厚生労働大臣が指定した資金移動業者は、公表される予定です。

◆給与デジタル払いの導入を検討するにあたって使用者が注意すべきこと
 給与デジタル払いができることになることで、振込手数料の削減が可能といわれており、使用者側にもメリットはあるとされています。
 しかし、デジタル払いを希望する従業員であっても、給与の全額をデジタル払いとすることを希望する者は少数であることが予想されます。そうすると、結局、従前の銀行振込の方法なども残さざるを得ないことから、銀行振込用のデータとデジタル払い用のデータを作成せざるを得なくなり管理の手間が増えることや、それに伴い給与計算システムの改修などを行わなければならなくなり、かえってコストがかかる可能性もあります
 したがって、現時点で給与デジタル払いの導入を検討するにあたっては、こうしたデメリットが発生する可能性も踏まえて、慎重に検討を行うべきであると考えます。

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