労務トラブルを解決する

労務問題・顧問弁護士.JP

NEWS&TOPICS

NEWS&TOPICS

退職届は必要なのか?

2020年07月16日

●退職届は必要なのか?

 最近、従業員が辞めたいと言ってきたが、退職届を提出してもらう必要があるのかという相談をよく受けます。
 弊所では、『退職届は出来る限り提出してもらった方が良い』というアドバイスをしています。特にトラブルが無ければ、労働者が退職を口頭で申出たときに、あえて退職届を提出させる必要がないようにも思えます。
 しかし、万が一後でトラブルになり裁判など法的に争われた場合、裁判所は退職の意思表示について、厳しく判断することがあります。
 一例として次のような裁判例があります。

◆参考裁判例 東京地裁判決平成29年12月22日(労働判例1188号56頁)

 この裁判例は、女性歯科衛生士が出産のため産休に入ったところ、自己都合退職扱いとされたことの有効性等を争った事案です。
裁判所は、退職の意思表示について次のような判断基準を示しました。

 退職の意思表示は、退職(労働関係の解消)という法律効果を目指す効果意思たる退職の意思を確定的に表明するものと認められるものであることを要し、将来の不確定な見込みの言及では足りない。退職の意思表示は、労働者にとって生活の原資となる賃金の源たる職を失うという重大な効果をもたらす重要な意思表示であり、取り分け口頭又はこれに準じる挙動による場合は、その性質上、その存在や内容、意味、趣旨が多義的な曖昧なものになりがちであるから、退職の意思を確定的に表明する意思表示があったと認めることには慎重を期する必要がある。
 また、我が国の雇用社会では、継続的な労働関係にあった労働者がみずからの意思で退職しようとするときは、使用者に対し、書面にて辞表、退職届又は退職願を提出することが通常であり、使用者の側も労働者の退職意思を明確にさせ、退職手続を進める上でも便宜であるため、そのような書面の提出を促すことが多い。(中略)
 このような慣行等に照らしても、書面によらない退職の意思表示の認定には慎重を期す必要がある。むしろ、辞表、退職届、退職願又はこれに類する書面を提出されていない事実は、退職の意思表示を示す直接証拠が存在しないというだけではなく、具体的な事情によっては、退職の意思表示がなかったことを推測しうる事実というべきである。

 このように、裁判所は退職届等の書面が提出されていないことを、退職の意思表示がなかったことを推測しうる事実と考える可能性があるため、退職届は出来る限り提出してもらった方が良いと考えます。

●退職届の文面

退職届を提出してもらう際、文面をどうするかという点も悩まれることがあると思います。
退職届として、最低限記載しておくべき事項は、退職希望日と退職する旨の記載です。

【記載例】

退職届
○○株式会社
代表取締役 □□ □□ 殿

 この度、私は、一身上の都合により、2019年●月●日をもって、貴社を退職いたします。

2019年▲月▲日
従業員  ◆◆ ◆◆ 

 ただし、トラブルになりそうな従業員が退職する際には、上記の記載事項だけでなく、事案によってはトラブルを予防するため追加で記載しておくべき事項がある場合もあります。したがって、トラブルになりそうな場合には、あらかじめご相談ください。

ページトップへ