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よくある質問

参考資料:取締役の責任・株式譲渡

3.ストックオプション
  1. ストックオプションとは何ですか。
    ストックオプションとは,会社がその取締役や従業員に対し,一定期間内に,あらかじめ決められた価格で,会社からその株式を自己に譲渡することを請求する権利(新株予約権)を与える制度を言います。通常は株式を買う場合は,買う時点の株価で買いますが,ストックオプションはあらかじめ取得価格が決まっているため,株価が取得価格より上昇している時にストックオプションの権利を行使すれば,市場価格より安い価格でその株式を入手できます。これを市場価格で売却すれば,取得価格と売却価格の差額が利益になります。業績連動型の新たな報酬の形態として,平成9年の商法(現在は会社法)で全面的に認められるようになりました。
  2. ストックオプションにはどのようなメリットがありますか。
    ストックオプションは,現金で報酬を与えることに比べて,会社にとって次のようなメリットがあります。
    • ① 報酬コストの低減化 ストックオプションによる報酬額は株価に連動するため,株価上昇により株主となった者が獲得する利益が増大しても,会社として負担するコストは変わりません。よって会社にとっては,株価を活用した低コストの業績連動型報酬制度と言うこともできます。
    • ② 取締役・従業員の士気向上
      会社の業績が伸びれば,必然的にその会社の株式の市場価格も上昇します。ストックオプションは市場価格ではなく,あらかじめ定められた価格で自社株を譲渡する制度ですから,ストックオプションによる利益を得るために,会社の業績を伸ばそうとする取締役や従業員の意欲・士気を高める効果を期待できます。
  3. 逆に,ストックオプションにはどのようなデメリットがありますか。
    • ① 経営陣のモラル低下
      経営陣が報酬の増大化を図るため株価第一主義となり,株価を釣り上げるために不当な決算処理や株価対策などを行うという,モラルの低下をもたらす危険性があります。
    • ② 株式価値の希薄化
      ストックオプション保持者による権利行使により,時価より低い価格で株式を発行することとなり,既存株主にとっては株式価値の希薄化につながります。また新規株式公開に際しては,過度な潜在株の存在は公開後の不確定要素とみなされる可能性があります。
  4. 取締役に対する,ストックオプション制度を導入するためにはどのような手続が必要ですか。
    ストックオプションは,報酬であると同時に,新株予約権の発行でもあるので,その双方のための手続が必要になります。
    • ① 取締役の報酬としての決議(会社法361条)
      ストックオプションは,取締役の職務執行の対価である財産上の利益に該当するため,報酬に当たり,取締役の報酬を決定するための決議が必要です。改正前商法のもとでは,ストックオプションについては,取締役の報酬としての決議は不要と解されていましたが,会社法の元では,ストックオプションは「報酬等のうち額が確定していないもの」(会社法361条1項1号)で,かつ「金銭でないもの」(同3号)に該当するものとして報酬としての決議が要求されます。具体的には,株主総会の普通決議によります。普通決議とは,議決権を行使することができる株主の過半数が出席し,出席した株主の議決権の過半数の多数で決議する場合をいいます(定款で変更可能)。決議の具体的内容としては,付与される財産がストックオプションである旨,そのストックオプションの価額の上限額,付与対象となる新株予約権の要綱について決議します。さらに,その株主総会の参考資料に省令82条1項規定の事項を記載します。
    • ② 新株予約権の発行決議
      公開会社の場合→
      公開会社においては新株予約権の発行については,原則として取締役会の決議で行います。例外的に,新株予約権の有利発行に当たる場合は,株主総会の特別決議が必要となります。有利発行に当たるかどうかについては,改正前商法のもとではストックオプションは有利発行とされていましたが,会社法のもとでは,ストックオプションの価格がその取締役の将来の報酬の割引分を考慮して決定されている場合は,有利発行には当たらないとされています。
      非公開会社の場合→
      公開会社以外の株式会社では,新株予約権の発行は,株主総会の特別決議事項ですが,株主総会の特別決議によりその決定を取締役会に委任することもできます。

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